足でふみゅふみゅ♡ 3
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「俊介って、変態なんだね」
開口一番、葉月はいら立ちをぶつけてしまった。
ある程度のいたずらなら、目をつぶるだろう。ものには限度があった。よりにもよって、乙女の秘所を覗かれてしまった。残念なことに、自分はやさしい人間ではないのだ。相手を責めたところで、なんの解決にもなりはしない。
それは分かっている。
ただ感情が先走ってしまうのだ。葉月もまだまだ子供だった。あまりに情けなくて、自己嫌悪におちいってしまう。
――朝から、すばらしいイベントね……男の人が憧れるんでしょうけど、私は納得いかないな。
学校の裏庭はうす暗かった。
密集した木々が空高く伸び、日射しををさえぎっている。しめった空気に、水気をおびた土。
一人で歩くのには、勇気が入りそうな場所だ。鳥の鳴き声がやたらと響いている。すみわたった空気が、唯一の救いだった。
「……返す言葉もないよ」
俊介はげっそりとへこんでいた。低姿勢をたもち、あわせた両手で謝っている。
「俊介も年頃の男の子だし、女性に興味をもつのも当然かな。でもね、ちょっとはわきまえてほしいんだよね。見られる私は恥ずかしいし、あんまりいい気分はしないんだよ。そこのところを分かってほしいの。うん、もちろん私のわがままだよ。この台詞は、最初から最後まで私のエゴでできてるの。そもそも女性のあそこはね、子供をつくる大事な場所なんだよ。神聖なの、ロマンチックなの。大好きな人にささげるのが、夢なのよ。それなのに俊介ときたら、いやらしい目で見つめてね。乙女心をあなどらないでよ……もう、ヘンなこと言わせないでね」
葉月はほっぺを両手で挟んで、くねくねと身体を踊らせてしまう。官能的な妄想にふけり、将来の婚約者と唇をかさねあう。ふわふわと身体がかるくなり、目のまえがピンク一色にそまった。ラブリーなハートが飛びかっている。胸がくすぐったくて、ふんわり幸せな気持ちにひたれる。
――私、こんなとこでなにしてたんだっけ?
当初の目的を忘れて、しばらくの間にやけっぱなしだった。
突きささる視線が、ふいに気になる。
自分の世界から帰還してみると、眼前には俊介がいた。身じろぎ一つしなかった。目を点にした俊介は、その場にかたまっている。
葉月はコホンッと咳払いをして、俊介にむき直った。うっかり力説してしまった。一先ず、ごまかすことにする。
たまに妄想癖がはげしくなって、自分でも持て余しているのだ。
「あぁ……応援してるよ」
「うん、応援しててね」
葉月はにこっと笑顔をつくった。さりげに俊介がジト目を送ってくるのは、気付かない振りをしてやりすごした。
「結論として、僕はエッチな好奇心を控えればいいのかな」
「その通りだよ」
「今度から……風のある日は気をつけるよ。じゃあ」
「待ってよ」
しゅたっと片手をふって去ろうとする俊介を、見逃すつもりはなかった。俊介の肩をつかんで、無理やり押しとどめる。肩越しに振り向いた俊介は、困惑していた。
「やっぱりダメか……そう簡単にはおさまらないよね」
「当然でしょ。私のターンはまだ終わってないの」
「熱弁をふるう葉月さん、素敵だったよ」
「どうもね。それを引き合いに出すのは、もう禁止だからね」
「けっこう印象的だったんだけどね。ぜひとも、学校中に広めたいぐらい……」
作り笑いを浮かべた葉月は、ただひたすら無言をつらぬいた。俊介は表情をこわばらせて、徐々に委縮していく。
「……それって、脅迫だぞ。べつのやり方でお願いしたほうが、僕も承諾しやすいんじゃないかな……?」
「じゃあ、誘惑するようにお願いしてみようか。身体を密着させてね」
「そんな友好的な雰囲気には見えないよ……洒落にならなそうだから、遠慮しとく。誰にも言いふらさないことを、ここに誓います」
「とてもじゃないけど、信じられないよ……口だけなら、なんとでも約束できるよ」
「……俺はどうすればいいんだ?」
「成り行きに身を任せれば」
低姿勢に謝ってくるのが、なお癇に障る。
行きすぎた妄想癖を、一方的にさらしてしまった。自分が間抜けじゃないか。俊介がおそってくるように見せかけた写真でも、取ってあげたい。俊介の恥ずかしい姿をこの目に焼きつけないと、気がおさまりそうになかった。
――理不尽だよね。
まだまだお子ちゃまな葉月だった。
「そこはとなく悪意を感じるんだけど……」
冷や汗をたらす俊介は見物だった。
俊介に手がふれる寸前、不気味な音がかすれる。葉の生い茂った上空から、なにかがざわざと鳴りひびいていた。四方八方、いろんな場所から聞こえてくるのだ。様々な種類の鳥たちが合唱をはじめた。あざわらうような、カラスの鳴き声まで混じる。
森の明度が、うっすらと闇色をおびた。
冥府にいざなうレクイエムを思い起こす。
全身にざわざわと怖気がはしった。手足の体温が冷たくなり、ちょっとした違和感にも過敏に反応してしまう。すこしの変化も突きとめるように、音源に視線をせわしなくはり巡らせた。
「お、おい。急にどうしたんだ?」
葉月の異変を察知した俊介は、手を差し伸べてきた。葉月はそれを払いのけると、両耳をぎゅっとふさいでしまった。
オカルト関係は苦手だ。幽霊とかは科学で否定されているんだろうけど、恐怖心はすこしも薄れてくれなかった。姿かたちが隠れているだけで、ホントはすぐそばに未知の存在が息づいている。得体のしれない音を聞くと、そんなふうに怯えてしまうのだ。
ほの暗いところでは、よけいに警戒してしまう。もはや度の行きすぎた習性だ。
冷静な俊介は、葉月をいぶかしんでいる。俊介の倒錯的な行動はもうどうでもよかった。そんなことに気を回す余裕なんて、今の葉月からは失われている。
ざわめきはより大きくなった。轟音が沈黙をやぶり、葉月の神経がぷちっと途切れてしまう。
「もう……やめてぇ……」
葉月はへなへなとへたり込んでしまった。地面は微妙にしめっていた。スカートに土がくっつき、ひんやりした感触がお尻にあたる。下半身をうち股ぎみに投げだし、脱力してしまう。
「えっえっ?この状況はなんなのさ」
「おっ、お化けが出たよ……ポルターガイストだよ」
「お化け?……とりあえず、落ちついてくれ!」
「私……こういうのダメなの」
「たんに鳥が飛び立とうとしてるだけだって」
俊介は葉月の肩をゆさゆさと揺さぶってくる。
ぐるんぐるんと回っていた景色が、元の形を取り戻しはじめた。緑の葉、すんだ青空。輪郭や色彩が、きちんと網膜に描かれる。
仰いだ空からは、羽の生えた影が無数にふってくる。ばざばざと翼をすべらして、彼方に飛んでいった。さわがしい翼音はちいさくなり、奇妙な現象は終わった。
森林は静寂を取り戻した。
「なに……あれ?」
「鳥の群れだよ」
「鳥……ねぇ」
数えきれないぐらいの集団だった。あれほどの鳥が学校にいるのも、それはそれで不思議だ。目下の危機は去ったけど、釈然としないしこりが残った。
「えーと……葉月さんの意外な一面だったな……って、言ってみたり」
「ホント苦手なのよ……ああいうのは」
「立てる?そのままだと汚れるしさ」
「それもそうね」
足に力を入れるけど、うまく動かせなかった。体に無理やり鞭打つ。せいぜい腰がぴょんぴょん跳ねるだけで、立てなかった。下半身の感覚はマヒしてしまい、地面にへばりついたままだ。
――ど、どうしようかしら。
普段からよく見られるように、努力はしてきたつもりだ。勉強もそれなりにやってきたし、スポーツも練習した。人前での振る舞いもつま先まで意識してきた、失敗もするけど。
全身から、さぁっと血の気が引いた。
科学の時代でオカルトに怯えるなんて、時代遅れもいとこだろう。情けなかった。醜態をさらした葉月に、幻滅していないだろうか。今までの積み重ねが、水の泡になってしまう。
「ほらっ、楽に立とうよ」
予想に反して、あたたかい眼差しが降り注いでくる。
俊介がにっこり手を差し出してきた。
筋肉の緊張がほぐれていく。葉月は下りてきた手をつかみ返し、よろよろと立ちあがった。ごつごつとした手は、意外にたくましかった。俊介とのつながりから、ほのかな甘酸っぱさがわいてくる。
「……紳士なのね」
俊介は苦しげに思案にくれた後、皮肉っぽく唇をつりあげる。
「惚れた?」
「はいっ?まるで脈絡がつかめないよ」
「いわゆるつり橋効果」
――つり橋を男女で渡ったら、惚れやすいってあれね。
俊介は呑気に笑っているし、本気で言っているようには感じられなかった。たぶん葉月を励まそうとしているのだろう。心配されるのは性にあわない。俊介のフォローに乗ろうと、葉月はわざとらしくため息をついた。
「はぁ……これぐらいでいちいち惚れてたら、大変な毎日よね」
「だな」
「なんかもう、やる気を削がれちゃったよ。私、なんで俊介を連れ出したのかしら?」
「さぁ?そんな些細なことよりも――はい、これ」
俊介はズボンのポケットをまさぐり、ハンカチを取り出した。シンプルなデザインで、きれいに整っている。使用した形跡が見うけられなかった。そのハンカチを葉月にさし出す。
「落ちついた感じのハンカチね」
「これで、土を拭きとりなよ」
「洗いたてでしょ。自業自得だし、気をつかわないでいいよ。それに、ハンカチだったら持ってきて……」
バッグのポケットをまさぐってみるけど、なんの感触もなかった。いつもだったら、決まったところにハンカチを入れているのだ。他の場所も、それらしいものは置いてない。
「せめてもの罪滅ぼしだよ。恩に着せるような真似はしないから」
「……好意に甘えるね」
「どうぞ。なんなら、拭いてあげようか」
「過保護ね。これでも私、人並みの家事はできるよ」
「いや~、きれいな足に触れたかったんだよ」
――足なんだ。
注目をあびるのは、好きでも嫌いでもなかった。ただ自分の身体を見つめられるとなると、戸惑いが生まれてしまう。
高校生になってからというもの、身体は丸みをおびていくのだ。その影響に、男性からよくいやらしい視線をむけられるようになった。最近、そういうのが気になりつつある。俊介への見方は変わらないけど、やっぱりやり切れなさはあった。
「煩悩のかたまりね……やっぱり、土がついたままでいいかしら」
「冗談だってば」
俊介はあせあせと取りつくろった。葉月はジトっと俊介に視線をはわせると、おもむろにハンカチを受け取る。
洗剤の残り香がほのかにただよってくる。不思議とわるくない匂いだった。
「ふざけるんなら、もっと徹底しなくちゃ。だいたんに胸をわしづかみにするとか」
「そんな勇気ないって」
「口のわりには、チキンなのね」
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開口一番、葉月はいら立ちをぶつけてしまった。
ある程度のいたずらなら、目をつぶるだろう。ものには限度があった。よりにもよって、乙女の秘所を覗かれてしまった。残念なことに、自分はやさしい人間ではないのだ。相手を責めたところで、なんの解決にもなりはしない。
それは分かっている。
ただ感情が先走ってしまうのだ。葉月もまだまだ子供だった。あまりに情けなくて、自己嫌悪におちいってしまう。
――朝から、すばらしいイベントね……男の人が憧れるんでしょうけど、私は納得いかないな。
学校の裏庭はうす暗かった。
密集した木々が空高く伸び、日射しををさえぎっている。しめった空気に、水気をおびた土。
一人で歩くのには、勇気が入りそうな場所だ。鳥の鳴き声がやたらと響いている。すみわたった空気が、唯一の救いだった。
「……返す言葉もないよ」
俊介はげっそりとへこんでいた。低姿勢をたもち、あわせた両手で謝っている。
「俊介も年頃の男の子だし、女性に興味をもつのも当然かな。でもね、ちょっとはわきまえてほしいんだよね。見られる私は恥ずかしいし、あんまりいい気分はしないんだよ。そこのところを分かってほしいの。うん、もちろん私のわがままだよ。この台詞は、最初から最後まで私のエゴでできてるの。そもそも女性のあそこはね、子供をつくる大事な場所なんだよ。神聖なの、ロマンチックなの。大好きな人にささげるのが、夢なのよ。それなのに俊介ときたら、いやらしい目で見つめてね。乙女心をあなどらないでよ……もう、ヘンなこと言わせないでね」
葉月はほっぺを両手で挟んで、くねくねと身体を踊らせてしまう。官能的な妄想にふけり、将来の婚約者と唇をかさねあう。ふわふわと身体がかるくなり、目のまえがピンク一色にそまった。ラブリーなハートが飛びかっている。胸がくすぐったくて、ふんわり幸せな気持ちにひたれる。
――私、こんなとこでなにしてたんだっけ?
当初の目的を忘れて、しばらくの間にやけっぱなしだった。
突きささる視線が、ふいに気になる。
自分の世界から帰還してみると、眼前には俊介がいた。身じろぎ一つしなかった。目を点にした俊介は、その場にかたまっている。
葉月はコホンッと咳払いをして、俊介にむき直った。うっかり力説してしまった。一先ず、ごまかすことにする。
たまに妄想癖がはげしくなって、自分でも持て余しているのだ。
「あぁ……応援してるよ」
「うん、応援しててね」
葉月はにこっと笑顔をつくった。さりげに俊介がジト目を送ってくるのは、気付かない振りをしてやりすごした。
「結論として、僕はエッチな好奇心を控えればいいのかな」
「その通りだよ」
「今度から……風のある日は気をつけるよ。じゃあ」
「待ってよ」
しゅたっと片手をふって去ろうとする俊介を、見逃すつもりはなかった。俊介の肩をつかんで、無理やり押しとどめる。肩越しに振り向いた俊介は、困惑していた。
「やっぱりダメか……そう簡単にはおさまらないよね」
「当然でしょ。私のターンはまだ終わってないの」
「熱弁をふるう葉月さん、素敵だったよ」
「どうもね。それを引き合いに出すのは、もう禁止だからね」
「けっこう印象的だったんだけどね。ぜひとも、学校中に広めたいぐらい……」
作り笑いを浮かべた葉月は、ただひたすら無言をつらぬいた。俊介は表情をこわばらせて、徐々に委縮していく。
「……それって、脅迫だぞ。べつのやり方でお願いしたほうが、僕も承諾しやすいんじゃないかな……?」
「じゃあ、誘惑するようにお願いしてみようか。身体を密着させてね」
「そんな友好的な雰囲気には見えないよ……洒落にならなそうだから、遠慮しとく。誰にも言いふらさないことを、ここに誓います」
「とてもじゃないけど、信じられないよ……口だけなら、なんとでも約束できるよ」
「……俺はどうすればいいんだ?」
「成り行きに身を任せれば」
低姿勢に謝ってくるのが、なお癇に障る。
行きすぎた妄想癖を、一方的にさらしてしまった。自分が間抜けじゃないか。俊介がおそってくるように見せかけた写真でも、取ってあげたい。俊介の恥ずかしい姿をこの目に焼きつけないと、気がおさまりそうになかった。
――理不尽だよね。
まだまだお子ちゃまな葉月だった。
「そこはとなく悪意を感じるんだけど……」
冷や汗をたらす俊介は見物だった。
俊介に手がふれる寸前、不気味な音がかすれる。葉の生い茂った上空から、なにかがざわざと鳴りひびいていた。四方八方、いろんな場所から聞こえてくるのだ。様々な種類の鳥たちが合唱をはじめた。あざわらうような、カラスの鳴き声まで混じる。
森の明度が、うっすらと闇色をおびた。
冥府にいざなうレクイエムを思い起こす。
全身にざわざわと怖気がはしった。手足の体温が冷たくなり、ちょっとした違和感にも過敏に反応してしまう。すこしの変化も突きとめるように、音源に視線をせわしなくはり巡らせた。
「お、おい。急にどうしたんだ?」
葉月の異変を察知した俊介は、手を差し伸べてきた。葉月はそれを払いのけると、両耳をぎゅっとふさいでしまった。
オカルト関係は苦手だ。幽霊とかは科学で否定されているんだろうけど、恐怖心はすこしも薄れてくれなかった。姿かたちが隠れているだけで、ホントはすぐそばに未知の存在が息づいている。得体のしれない音を聞くと、そんなふうに怯えてしまうのだ。
ほの暗いところでは、よけいに警戒してしまう。もはや度の行きすぎた習性だ。
冷静な俊介は、葉月をいぶかしんでいる。俊介の倒錯的な行動はもうどうでもよかった。そんなことに気を回す余裕なんて、今の葉月からは失われている。
ざわめきはより大きくなった。轟音が沈黙をやぶり、葉月の神経がぷちっと途切れてしまう。
「もう……やめてぇ……」
葉月はへなへなとへたり込んでしまった。地面は微妙にしめっていた。スカートに土がくっつき、ひんやりした感触がお尻にあたる。下半身をうち股ぎみに投げだし、脱力してしまう。
「えっえっ?この状況はなんなのさ」
「おっ、お化けが出たよ……ポルターガイストだよ」
「お化け?……とりあえず、落ちついてくれ!」
「私……こういうのダメなの」
「たんに鳥が飛び立とうとしてるだけだって」
俊介は葉月の肩をゆさゆさと揺さぶってくる。
ぐるんぐるんと回っていた景色が、元の形を取り戻しはじめた。緑の葉、すんだ青空。輪郭や色彩が、きちんと網膜に描かれる。
仰いだ空からは、羽の生えた影が無数にふってくる。ばざばざと翼をすべらして、彼方に飛んでいった。さわがしい翼音はちいさくなり、奇妙な現象は終わった。
森林は静寂を取り戻した。
「なに……あれ?」
「鳥の群れだよ」
「鳥……ねぇ」
数えきれないぐらいの集団だった。あれほどの鳥が学校にいるのも、それはそれで不思議だ。目下の危機は去ったけど、釈然としないしこりが残った。
「えーと……葉月さんの意外な一面だったな……って、言ってみたり」
「ホント苦手なのよ……ああいうのは」
「立てる?そのままだと汚れるしさ」
「それもそうね」
足に力を入れるけど、うまく動かせなかった。体に無理やり鞭打つ。せいぜい腰がぴょんぴょん跳ねるだけで、立てなかった。下半身の感覚はマヒしてしまい、地面にへばりついたままだ。
――ど、どうしようかしら。
普段からよく見られるように、努力はしてきたつもりだ。勉強もそれなりにやってきたし、スポーツも練習した。人前での振る舞いもつま先まで意識してきた、失敗もするけど。
全身から、さぁっと血の気が引いた。
科学の時代でオカルトに怯えるなんて、時代遅れもいとこだろう。情けなかった。醜態をさらした葉月に、幻滅していないだろうか。今までの積み重ねが、水の泡になってしまう。
「ほらっ、楽に立とうよ」
予想に反して、あたたかい眼差しが降り注いでくる。
俊介がにっこり手を差し出してきた。
筋肉の緊張がほぐれていく。葉月は下りてきた手をつかみ返し、よろよろと立ちあがった。ごつごつとした手は、意外にたくましかった。俊介とのつながりから、ほのかな甘酸っぱさがわいてくる。
「……紳士なのね」
俊介は苦しげに思案にくれた後、皮肉っぽく唇をつりあげる。
「惚れた?」
「はいっ?まるで脈絡がつかめないよ」
「いわゆるつり橋効果」
――つり橋を男女で渡ったら、惚れやすいってあれね。
俊介は呑気に笑っているし、本気で言っているようには感じられなかった。たぶん葉月を励まそうとしているのだろう。心配されるのは性にあわない。俊介のフォローに乗ろうと、葉月はわざとらしくため息をついた。
「はぁ……これぐらいでいちいち惚れてたら、大変な毎日よね」
「だな」
「なんかもう、やる気を削がれちゃったよ。私、なんで俊介を連れ出したのかしら?」
「さぁ?そんな些細なことよりも――はい、これ」
俊介はズボンのポケットをまさぐり、ハンカチを取り出した。シンプルなデザインで、きれいに整っている。使用した形跡が見うけられなかった。そのハンカチを葉月にさし出す。
「落ちついた感じのハンカチね」
「これで、土を拭きとりなよ」
「洗いたてでしょ。自業自得だし、気をつかわないでいいよ。それに、ハンカチだったら持ってきて……」
バッグのポケットをまさぐってみるけど、なんの感触もなかった。いつもだったら、決まったところにハンカチを入れているのだ。他の場所も、それらしいものは置いてない。
「せめてもの罪滅ぼしだよ。恩に着せるような真似はしないから」
「……好意に甘えるね」
「どうぞ。なんなら、拭いてあげようか」
「過保護ね。これでも私、人並みの家事はできるよ」
「いや~、きれいな足に触れたかったんだよ」
――足なんだ。
注目をあびるのは、好きでも嫌いでもなかった。ただ自分の身体を見つめられるとなると、戸惑いが生まれてしまう。
高校生になってからというもの、身体は丸みをおびていくのだ。その影響に、男性からよくいやらしい視線をむけられるようになった。最近、そういうのが気になりつつある。俊介への見方は変わらないけど、やっぱりやり切れなさはあった。
「煩悩のかたまりね……やっぱり、土がついたままでいいかしら」
「冗談だってば」
俊介はあせあせと取りつくろった。葉月はジトっと俊介に視線をはわせると、おもむろにハンカチを受け取る。
洗剤の残り香がほのかにただよってくる。不思議とわるくない匂いだった。
「ふざけるんなら、もっと徹底しなくちゃ。だいたんに胸をわしづかみにするとか」
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